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本当の換気を知る第1回 ダクトレス、熱交換、第3種.その特徴と欠点

換気設備の設置義務化による功罪

 2003年に建築基準法が改正され、24時間連続運転できる機械換気設備を設置することが義務づけられました。この法律はシックハウス対策のために、その原因となる建材類の化学物質使用規制とともに、室内空気を確実に入れ替えるために、換気設備の設置を義務づけるものでした。
法律の施行から10年以上が過ぎました。シックハウスを防止するという法律の目的は、建材規制などの効果もあってこれまでのところおおむね達成されたといっていいでしょう。
しかし、それによって別の問題も発生してしまいました。というのも、『建築確認申請』によって耐震偽装を見抜けなかった『姉歯事件』と同じく、機械換気設備も十分に性能確認がなされないまま、どんどん新築住宅に取り付けられることになったのです。現行の制度は、設計換気量を施工後に確認することを求めない事後検査なしの制度だからです。
この結果、「ダクトレス」と聞こえは良い「壁掛け換気扇」が主流となってしまいました。自然給気・集中排気のセントラル換気(第3種換気)を導入普及してきた私としては、奇妙かつ残念な現状でもあります。
清潔好きといわれている日本人には、きれいな空気を求める意識が薄いのでしょうか? それとも「壁掛け換気扇」はじゅうぶん満足できる性能を居住者に提供できているのでしょうか?

空気の善し悪しはどう判断するの?

 一般の人が空気の善し悪しを判断するのは非常に難しいことです。なぜなら、良い空気と悪い空気を識別できる簡易な方法が一般化されていないからです。  人間は、臭いに対して敏感でもあり、また鈍感でもあります。同じ臭いを長く嗅いでいると、その臭いに対してどんどん鈍感になってしまい、他人に指摘されるまで分からなくなってしまうのが、ひとの嗅覚の特性なのです。  住宅には、その家庭それぞれの臭いが発生します。その臭いは、住み方によって変わってきますし、住宅内部に発生するカビ等の臭いも混在することにより、より一層、その臭いは複雑化します。

皆さんは、いま住んでいる住宅がどんな臭いを毎日発生させているか、調べたことはありますか? トイレ、浴室、キッチンなどで臭いが滞留していませんか? カビがよく生えませんか? 最近、コマーシャルでよく見る消臭剤に頼っていませんか? 冬に窓やその周りが結露しませんか?  実は、このような症状は換気システムを見直すだけで改善します。結論を申し上げると、ほとんどの場合は換気不足が原因なのです。 最近の住宅は昔の住宅よりも気密性が高く、風の流れも阻害されている間取りが多いため、ただ1カ所の窓を開けただけでは簡単に換気されないケースがほとんどです。 真剣に換気システムを選択する場合は、価格や施工しやすさだけで選んでは不十分です。空気は見えないことと、ひとの嗅覚の特性による慣れが、改善を遅らせることを、空気の質を提供してきた経験者として、明らかにしたいところです。

地球環境にやさしい家づくり


 最近、盛んにCO2(二酸化炭素)削減が叫ばれ始めてきました。地球環境にやさしい家づくり、住まい方などが、今後ますます求められます。
そのためには、少ない冷暖房費で賄える住宅づくりが求められ、住宅の気密、断熱化が進みます。住宅が気密化することにより、より良い住宅の換気方法が必要になります。
住宅にとって、住む人たちの健康にとって、良い換気とは何かということを真剣に考えた住宅づくりが必要になってきます。

室内の空気の質を測る方法は

 住宅の換気システムの位置付けは、人間における呼吸や肺の役割と同じで、きれいな空気を体全体に行き渡らせるのが仕事です。人間は呼吸が止まればほとんどの場合、死に至ります。住宅も呼吸ができなければ、その中に住んでいる人間の健康状態に悪影響を及ぼし、住宅自体の劣化が早まります。

一方、シックハウス法以降は、室内空気をサンプリングして、その中に含まれている化学物質を特定する検査が行われるようになってきました。現在では、簡単に室内のCO2濃度を測定し、表示してくれる測定器が出てきました。この測定器を使用することで、どんなときCO2濃度が上がったり、下がったりするかを知ることができます。また、それを知ることにより、CO2濃度を下げる方法も知ることができます。
いちばん簡単な例は、灯油ファンヒーターなど開放型のストーブを室内で使用したとき。部屋の大きさにもよりますが、良い空気の目安とされている1000PPMから、瞬く間に5000PPMを超えた値になってしまいます。
これは、室内の空気を取り込んで燃焼させ、排気された空気を室内に戻すためです。このサイクルであれば当然空気は汚れてもおかしくないと思いませんか?

<CO2監視モニター>

灯油の臭いや、燃焼を始めるときに出る臭いなどは、昔に比べたら少なくなったと安心しても、室内の空気を汚染するサイクルは何も変わっていないことを知るべきです。このような室内空気を汚染する暖房方法が、日本では過去50年以上も続けて使われていることに、疑問を感じているのは私だけでしょうか。

住宅の換気

 住宅の換気は難しく考えると難しい。やさしく考えるとやさしい。このことが、見えない空気のはなしを余計に見えにくくする点です。なぜなら、換気はただ空気を入れ替える作業ですが、冬場は暖房との兼ね合い、夏場は冷房との兼ね合い、春秋は外の自然な空気との兼ね合いという要素を伴うからです。
 空気を動かすことができるのは、風、温度差、機械による力です。換気が必要な時、風がすぐ吹いてくれますか? 温度差がすぐつくれますか? 自然の力だけで都合よく換気することは相当に難しいのです。

機械換気の種類とメンテナンス

 では、必要なときに必要な量を、どうやって換気したらよいのでしょうか。機械を使用することにより、簡単かつ正確に換気量を調達することができます。
 機械換気には、3種類の方法があります。第1種換気は「機械給気、機械排気」、第2種換気は「機械給気、自然排気」、第3種換気は「自然給気、機械排気」です。
 ただし、機械換気を使うことになれば、そのメンテナンスが重要な課題として出てきます。なぜなら、機械に使われているモーターには寿命があります。24時間、365日回り続けて、5年10年と持たせるには、メンテナンスが必要不可欠になります。
 また、モーターが壊れた場合に、手軽に取り換えが利くメーカー品が必要となります。残念ながら換気システムは、各メーカー間での相互取り換えが利かない場合がほとんどです。

熱交換換気システムの使い方を間違えば...

 現在、日本の住宅で使用されている換気システムは第1種と第3種がほとんどです。
 そのうち、第1種は熱交換(回収)式と呼ばれるものです。このシステムは、排気する空気が持っている熱を給気される空気に与え、損失する熱量を少なくすることができるシステムです。
 これだけを聞いたら、何と素晴らしい方法かと思います。ただし、問題は、メンテナンスも考えなければいけないことです。そこが換気をトータルで見なければならない「難しさ」です。
 では、難しいとはどんなことでしょうか? 簡単に挙げると、次の2つが最大のメンテナンスポイントです。
 ① 熱交換効率は、フィルターのメンテナンスの頻度で決まる。
 ② 給気ダクト内部の汚れの清掃方法。排気ダクト内部の清掃方法。
 なぜ、第1種はフィルターが重要なのでしょうか? それはすべての性能をフィルターが担っているためです。循環する空気をきれいにし、外からの空気に含まれているさまざまなゴミ、塵、花粉を除去し、室内に取り込む役割があります。

このフィルターが目詰まりすれば熱交換効率が落ちますし、モーターに負担がかかり、寿命にも影響します。
 また全熱交換の場合は、室内で発生したさまざまな菌が、フィルターに付着し増殖する恐れがあります。よく知られている事例として、アメリカでは在郷軍人病というお年寄りや体力のない人が、空調機の噴き出し口からの細菌感染で亡くなる事故がありました。
 日本の病院での院内感染、乳幼児の細菌感染などは、空調ダクトを通じて細菌が発生源の部屋から病院全体にばらまかれるように拡散して起こるものです。
 熱交換を行うことは、室内の空気を循環させることであり、汚染された空気をフィルターできれいにするためには、フィルターの性能、メンテナンスがとても重要なポイントになるのです。
 では、このような大事なことを担うフィルターの性能は、どのくらいのレベルを皆さんは要求しますか? フィルターの性能を上げると、早く目詰まりするために頻繁なメンテナンスが必要になります。もし、そのことが煩わしいのであれば、フィルターの性能を落とすことにより目詰まりしにくいようにもできますが、熱交換の種類によっては危険な問題も起きます。
空気の質をチェックできない、しっかりとしたメンテナンスができない一般家庭に、使い方によって健康を害する危険性すらあるシステムを熱回収のメリットだけで使用してもよいのでしょうか? またそんな危険性があることをよく知らない工務店が使用して、施主の健康に責任を負うことができるのでしょうか? 問題の重要性はここにあります。
 熱交換器は、冬場の寒冷地では凍結防止のために霜取りヒーターを用います。電気代の高い日本でヒーターを使い、モーター2台を回して熱交換することが、お客さまの負担を考えた本当の省エネなのでしょうか? また、外気温度がそれほど低くならない地方で、熱回収するために電気を2倍以上使うメリットはどのくらいあるのでしょうか。

第3種換気システムと熱交換システム

 それであれば、機械換気システムとしては、空気を還流させない第3種の自然給気による機器、つまり機械排気によって汚染された空気は機械を通して外に排気され、新鮮な空気は壁に取り付けた給気口から取り入れるという方が、単純明快で良いのはいうまでもないでしょう。
でも、第1種の熱交換システムに比べたら、第3種は2時間に一度、室内の暖めた空気、冷やした空気をすべて捨ててしまうので、省エネにならないと考える向きもおありでしょう。本当でしょうか?
住宅の断熱、気密性能を上げることにより、換気による熱損失や暖冷房の負荷などは計算できます。
熱交換システムを使うためのランニングコスト、イニシャルコスト(初期費用)、熱交換システムが潜在的に持っている空気を汚染する危険性、頻繁なフィルターメンテナンスコスト、そのために居住者の機械のメンテナンスに対する高い意識レベルの教育などを考えると、本当はどちらが居住者にとって安心して長い期間使い続けられる換気システムなのか、使う立場で考えれば答えが出るように思います。いかがですか?

換気システムで思うこと

 換気は簡単に考えればいくらでも簡単にできます、と先に申し上げました。空気が危険信号を出すわけではないので、何でもやりたいようにできます。ただ、中途半端な知識や、自分の思い込みで空気を自由に動かしたり、きれいにしたりできると思うことは、非常に危険なことと思ってください。
 いろいろなひとが、いろいろな説や理論で換気システムを語ります。それらはすべて間違ってはいないとしても、すべてが正しいとも言えないわけです。それであれば、何を頼りに決めるのですか? 一つだけ言えるのは、換気のシステムや流れは単純な方が良いということです。複雑なものを求めれば、空気が滞留したり、汚染するリスクが大きくなることだけは間違いありません。
ひとの生存に欠かせない、見えないけれど大切な空気を売り続けてきたプロの自負と責任から、この確信を声を大にしてお伝えしたいと思います。