住宅換気コラム

熱交換換気システムのネガティブ情報を開示します 第9回

はじめに
2020年に開催される東京オリンピックの予算が大きくふくらみ、競技会場の見直しをめぐって国と東京都など自治体が紛糾していますが、住宅業界では2020年に予定されている省エネルギー基準の義務化に向けて、様々な制度や取組がスタートしています。
その一つにZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)があります。ZEHは高断熱外皮、高性能設備と制御機構等を組み合わせ、住宅の年間の一次エネルギー消費量が正味でゼロとなる住宅ですが(図1:ZEHの概要)、日本輸入換気システム連盟(JVIA)に関連するものとしては換気システムがその対象となります。

図1:ZEHの概要

様々な換気システムの中で、暖冷房に使う一次エネルギーを減らす観点から、排気熱から暖房熱や冷熱を回収する第一種熱交換型換気システム(これ以降、熱交換換気システムという)が注目されるのは至極当然の流れです。
JVIAとしては、設計・施工者だけでなく、実際に使用するオーナー様に熱交換換気システムを正しく理解して選択、ご使用いただくため、熱交換換気システムのネガティブ情報である本当の省エネルギー性を中心に、以下の項目に沿ってみていきましょう。

1.ネガティブ情報を開示しない現状の販売
2.「健康」実現のためには、日々の清掃と清掃しやすい設置方法が必要
3.冷気感じない「快適」給気には設置の工夫が必要
4.「省エネ」は全館・24時間暖冷房の場合に限られる
5.熱交換換気システムの効果をシミュレーションする
6.まとめ

1.ネガティブ情報を開示しない現状の販売

 数年前の熱交換換気システムのカタログやチラシを見ると「熱回収効率80%」「温度交換効率90%」等々、熱回収効率の高さを競う言葉が多く見られました。最近は、熱交換効率はあまり前面に出ておらず、エンドユーザーに良いイメージを訴えかける「健康」「快適」「省エネ」といったキーワードがよく見られます。

図2:熱交換換気ユニットのイメージ

住宅販売の営業マンがオーナー様に向けて換気システムを説明する際に、これらのキーワードはセールスポイントとして説明しやすく、受け入れてもらいやすいという話を換気システムの営業現場でよく聞きます。
換気システムは「健康」「快適」に大きな役割を果たし、熱交換換気システムなら「省エネ」を実現することも可能です。ただし、それは換気システム単体の性能だけでは実現しません。ここが非常に大切なポイントなのです。
暖冷房方法やメンテナンスが悪いと、熱交換換気システムは「健康」「快適」そして「省エネ」を実現できなくなります。こういったいわばネガティブ情報を開示しない現状の販売方法に惑わされることのないよう、ここではあえて熱交換換気システムのネガティブ情報をまとめました。

JVIA会員企業も熱交換換気システムを販売しています。熱交換換気システムの本当の実力を知っていただくことが、いま最も大切な情報提供のひとつと考えているからです。

2.「健康」実現のためには、日々の清掃と清掃しやすい設置方法が必要

換気システムの目的は室内で発生する水蒸気やCO2(二酸化炭素)そしてVOC(揮発性有機化合物)等、その他空気汚染物質を排出して外気の新鮮空気を取り入れ汚染物質の濃度を希釈することです。
換気が健康を維持する仕組みで重要なことは、汚染物質の濃度を一定値以下に引き下げる換気量の確保とその維持にあります。ここで重要になるのは換気システムのメンテナンスなど維持管理体制になります。その中で最も重要になるのがフィルターのお手入れです。外気の導入は虫や埃が入らないようにフィルターを通します。このフィルターの性能を良くすることでPM2.5等の微細な汚染物質も除去でき、給気空気が外気よりもきれいになります。これが健康につながる訳ですが、いいことばかりではありません。

写真1:虫だらけの給気フィルター

フィルターのメンテナンスついては前回の「知らないと後悔する、換気システム選びの重要ポイント」の中で細かく解説をしていますので詳細は割愛しますが、熱交換換気システムは強制的に給気を行うため給気フィルターの汚れ具合が換気量や質に大きく影響します。給気フィルターのメンテナンスが重要となり、それを怠ると「健康」を害する可能性があることもある訳です。(写真1)
つまり「フィルター清掃を怠ると換気不足=室内空気汚染の危険が高まる」となりますのでフィルターのメンテナンスがしやすい機械(システム)を選択することが大切です。

また、室内に新鮮空気を供給するダクトも定期的な清掃が必要なため、清掃がしやすいダクトが望ましいでしょう。換気の先進国スウェーデンでは、熱交換換気の給気ダクトを集合住宅では3~4年に1回の間隔で清掃することを義務付けています。しかし清掃はユーザーには難しく、一般的には専門業者に高い費用をかけて依頼しなければなりません。
(前号に以下のイラストがありますhttp://www.jvia.jp/column/igi_8.htm#sec5-4)

これらが出来れば非常に健康的な空気環境を実現できますが、言い換えればメンテナンスが出来ないオーナーはむしろ健康を阻害しかねないシステムになります。第3種換気が支持される理由はこのようなリスクが相対的に低いからです。
オーナーは、自分自身がしっかり掃除できるタイプかどうかを冷静に考えてみる必要があります。

3.冷気感じない「快適」給気には設置の工夫が必要

住宅の快適性は床・壁・天井の外皮の温度と室内温度で決まります。換気システムによる給気空気の温度は、たとえ熱交換しても冬場には室温より低いため、室内温度に影響するのです。
外気を直接導入する第三種換気システムは、外気温が低い場合、給気口の位置や給気量によっては冷気が不快に感じることがありますが、それを想定した給気口や暖冷房機器の配置などの計画が十分に配慮されている場合は不快と感じることはありません。

図3:給気口の形状による冷気流の解消例

熱交換換気システムは排気から熱を回収し、その熱を給気空気に伝えます。寒い冬でも給気を加温できるので、室温への影響は小さくなります。
室内への給気温度は、排気温度(室温)と外気温、そして熱交換効率により決まります。注意してほしいのは、高い熱交換効率の熱交換換気システムでも、室温よりは低い空気を室内に吹き込むので、気流を感じるような給気の位置だったり、暖冷房面配慮がない計画だと、「熱交換換気システムなのに肌寒く感じる」ということが起きてしまうことです。

熱交換換気システムにおいても、給気口の配置と暖房計画をしっかり行う必要があるという点では第三種換気システムと同様です。

4.「省エネ」は全館・24時間暖冷房の場合に限られる

図4 暖房方式が違うと熱回収効率が下がる!

熱交換換気システムの特長は何と言っても冷暖房の熱を回収できることです。その特長を最大限に生かすには冷暖房がしっかり行われていること、外気温と室温の差が大きいことが必要となります。さらに冷暖房を使用する期間と時間が長ければ長いほど熱回収の効果が高くなります。
北海道や東北地方では暖房期間が長く、かつ全室全日暖房を行う住宅が多く、そのような住宅は熱回収効果が期待できます。言葉を換えれば、寒さが厳しい地域は熱交換換気システムを生かすことができるのです。

一方、リビングだけ、ダイニングだけといった家の中の一部分だけを暖房している家や、暖房時間は朝と夜だけ、それ以外は暖房をオフにして間欠暖房を行っている住宅、つまり本州の住宅のほとんどは、使用する暖房の熱量が少ないため回収する熱エネルギーも少なくなります。また、暖房も冷房も使わない春や秋の中間期は、熱交換のメリットは全くなくなります。
この点については「第6回 寒冷地における熱交換換気の選び方」において詳しく説明しているので、そちらも参考にしてください。
http://www.jvia.jp/column/igi_6.htm

もうひとつ忘れてならないことがあります。
ほとんどの国産熱交換換気システムは、トイレと浴室、台所レンジフードを換気経路に組み込まない設計になっており、これらは局所換気となります。局所換気稼働時にはその換気分の熱は回収されません。このため、多くの場合、熱交換換気システムは家全体の0.5回/hよりも少ない換気量しか熱交換しない設計になっており、回収できる熱量はそもそも少ないのです。
輸入品の熱交換換気システムは、トイレと浴室からの換気も熱交換します。台所のレンジフードまでも換気経路に組み込む機種もあります。こういった点も見逃せません。

参考図:当連盟会員の熱交換換気の給気経路図です。トイレや浴室もセントラル換気に組み込みます(黄色の排気部分)

換気システムを動かすモーターについても見ておきましょう。熱交換換気システムの多くはモーターを2台使用し、熱交換素子など空気抵抗になる部材もあるため、第三種換気と比較すると電力消費量は2倍以上になります。電力消費の増加分を補ってあまりある熱回収が期待できるシステムを選んでください。

5.熱交換換気システムの効果をシミュレーションする

ここまで説明してきたことを数値で見ていきましょう。
建築地域と建物の断熱等級、冷暖房の運転条件を考慮して、熱交換換気システムの省エネ効果をシミュレーションしてみました。計算は「基準一次エネルギー消費量一覧、用途別一次エネルギー消費量算定用シート、基準達成率算定シート ver1.1」を使っています。

図5 熱交換換気の効果(全館連続暖冷房)

図5の棒グラフは、断熱等級4で全館連続暖冷房の場合、熱交換ありと熱交換なしで暖冷房換気エネルギー量を比較したものです。等級4は2020年に義務化が予定されている断熱性能と同等です。
これを見ると、1~4地域までは熱交換ありの方がエネルギー消費量が顕著に少なくなっています。
さらに、断熱性能の等級3~5の場合について、熱交換換気の効果を試算したのが表です。1~6地域まで熱交換ありの方が省エネ効果が高いことがわかります。

図6 熱交換換気の効果(部分間欠暖冷房)

しかし、実際の住まい方としては、3地域以南は部分間欠暖冷房が一般的です。その場合の省エネ効果はどうなるのでしょうか(図6)。
下表は熱交換換気がどれだけエネルギーを削減できるかを示しています。それによると、断熱等級4の場合、4地域以南では熱交換換気によるエネルギー削減効果がないという結果が出ています。
※ 図5及び6の資料出典:
「建築技術」2014年1月号P138 高知工科大学准教授 田島昌樹 氏作成をJVIAが加工した

6.まとめ

熱交換換気システムは「健康」「快適」「省エネ」を実現する装備ですが、それは機器だけで実現できるものではありません。換気システムに装着されているフィルターや、特に給気側の空気を各部屋に送るダクトが常に掃除されていること、給気の吹き出し口の設置方法や暖冷房方法が室温を変動させないように配慮されていること、全館・24時間暖冷房されていることが、熱交換換気システムの性能を引き出す条件になっていることがお分かりいただけたと思います。

 健康・快適で省エネな住宅を実現させるためには、建物本体の高い断熱・気密性がまず重要です。そのうえで、暖冷房・換気などの機器の特性と清掃・メンテの必要性を理解した上で設計されていること、施工後に検査が行われていること、住まわれるオーナーにしっかり使い方を説明し、オーナーが理解すること、そしてしっかりメンテナンスしながら暮らすことによって初めて実現できるものなのです。

今の熱交換換気システムのPRや売り方は、本来は条件つきで発揮できる諸性能を無条件で発揮できるかのように表現しており、お客さまにとってはロマンティックな説明になっています。しかし、その裏には性能を引き出すための条件が隠されています。それを知らないで起きる不具合や期待以下の省エネルギー性能を、ユーザーの責任で済ませてよいのでしょうか?
供給側はイメージ先行の売り方を卒業して、お客様が喜んでいただけるよう、表も裏も伝える売り方に変えていく必要があります。ポジティブ・メリットもネガティブな面も両面提示が非常に大切になります。
また、ユーザーも正しい知識を身に着けて「健康」「快適」「省エネ」が実現できる住まい方を長い間続けてほしいと思います。