住宅換気コラム

日本で二酸化炭素濃度の高い場所-CO2濃度と室内換気(前編) 第13回

はじめに
室内換気は、新鮮な外気をフィルターでろ過して室内の取り入れ、少し汚れた室内の空気を取り入れた新鮮空気で薄めることで、空気の汚れを一定基準以上に維持すること目的としています。
新鮮空気であるはずの屋外の空気ですが、植物の胞子や花粉、自動車、工場、他の住宅などからの排気ガス、その他のほこりも混じっています。これらを除去して取り込むことが重要です。特に幼児やお年寄りなどの抵抗力が弱い人たちの健康を維持させるためにも重要ですが、今回は特に住宅内から発生する汚染の要因について考えてみます。

1.室内の空気を汚す物質:VOC、ニオイ
2.二酸化炭素=炭酸ガス=CO2とは?
3.室内の二酸化炭素は健康に悪影響があるか?
4.就寝中の寝室はCO2濃度が上がりやすい
5.1000ppm超えるのは電車や新幹線の車内くらい!
6.けっきょく自宅のCO2濃度がいちばんの問題


1.室内の空気を汚す物質:VOC、ニオイ

 住宅内から発生する主に汚染物質をあげます。

VOC(揮発性有機化合物)
・住宅建築に使用した建材から放出された揮発性ガス
・家具などの木製加工品から放出される揮発性ガス
・香水、化粧品、芳香剤等の日用品から発生する揮発性ガス

臭 い
・調理、生ごみ、トイレや下駄箱
・体臭
実は、ほとんどの物質から大なり小なり臭いが放出されています。臭いの単位は、デンマークのFangerさんという大学教授によって提案された単位「OLF」が広く使われています。これは空気汚染物質の発生量を表しており、「1OLF」が1人の標準的な成人の体から発散する量とされています。
以下、その具体例を下の表に記載しますが、石などからも微量ながら発生していることがわかります。

湿度(湿気・水分)
・人間の生活で体から放出される水蒸気など。
・生活(入浴、洗濯、調理)にともなって発生する水分。
・以下は3人で1日あたり約10リットル発生することを示しています。

二酸化炭素
・人間が生存を継続するために必要な酸素を取り込み、その廃棄成分として放出される、人間が生活することで発生するガス。
これらの住宅内から発生する汚染物質を屋外の空気で希釈し、正常な度合いにするための換気量が法律で定められています。その換気量が確保されていれば、健康的に過ごせる住宅の条件をひとつクリアしたことになります。今回はその中の二酸化炭素に関して調べてみました。

2.二酸化炭素=炭酸ガス=CO2とは?

二酸化炭素は石油などの化石燃料を使うことで発生量が増えているとされ、地球的な規模でその排出量を抑えるために、パリ協定に代表されるように世界的に濃度引き下げの取り組み、つまり化石燃料の消費量を抑える省エネルギー対策が進んでいますが、下のグラフのように、いまだにその濃度は上昇しているようです。
現在、およそ400ppmが日本の平均的濃度とされています。もちろん季節や場所によって異なりますので、山や森で空気がおいしく感じるのは、この二酸化炭素濃度が低いことも理由のひとつかもしれません。

気象庁の観測点における二酸化炭素および年増加量の経年変化

3.室内の二酸化炭素は健康に悪影響があるか?

では住宅内においてはどのようになるのでしょうか?
実は日本も含めた世界諸国においては、建築に関する法律で基準が厳密に定められています。いくつか事例を紹介します。

以下は近畿大学医学部東賢一准教授が厚生労働省で開かれた研修会において発表した内容です。
※「建築物環境衛生管理基準の設定根拠の検証について」 東賢一 近畿大学医学部環境医学・行動科学教室 平成23年度生活衛生関係技術担当者研修会資料から一部抽出。

CO2の基準値設定について
1971年作成のビル管講習会テキストによると、「二酸化炭素濃度は、空気清浄度の1つの指標として、従来より測定されており、また居室では、人の呼気、喫煙、炊事、また調理等により、影響を受けやすい。二酸化炭素自体は、少量であれば人体に有害ではないが、1000ppmを超えると倦怠感、頭痛、耳鳴り、息苦しさ等の症状を訴えるものが多くなり、フリッカー値(フリッカー値が小さいほど疲労度が高い)の低下も著しいこと等により定められたものである。」とある。

WHO報告書(1968年)「住居の衛生基準に対する生理学的基礎」
・生理学的研究によると、5000ppm以上の濃度になると、炭酸ガスは呼吸数をガス交換に必要なレベル以上に増加させ、呼吸系統に付加的な重荷を負わせる。
・1881年にPettenkoferらは700~1000ppmを炭酸ガスの許容濃度とみなすと提言し、この数値に生理学的基礎はないが、家庭内の空気汚染の間接的な指標として実際的な数値である。
・1000ppmのCO2の吸入実験(Eliseeva 1964)で呼吸、循環器系、大脳の電気活動に変化がみられたと報告している。
WHOによるCO2の判定基準を考慮しつつ、主に空気清浄度(換気の評価基準)の判定指標として、1000ppmに設定したと考えられる

読んで分かる通り、日本の建築物も例外なく、1000ppm以下の濃度に抑えるように法令化されています。

4.就寝中の寝室はCO2濃度が上がりやすい


では日本の「住宅」ではどうでしょうか?
住んでいる人が換気設備を使う意識があるか否かで、住宅内の二酸化炭素濃度は決まると言ってほぼ間違いはありません。
以下は、ある住宅の寝室の二酸化炭素濃度の推移を測定したものです。そして高い二酸化炭素濃度がもたらす症状を記載します。
出典は、「住宅の評判ナビ」という情報サイトから引用します。
https://www.towntv.co.jp/2012/10/co2-consis.php

平成11年に建てられた、鉄骨2階建て(積水ハウス)の共同住宅のある一室(53.5m2。
平成24年9月、寝室に二酸化炭素濃度測定器を設置。

寝室の扉は開き、53.5m2の居室の扉は全て開く。
寝室には大人2名が就寝。
就寝時間から起床に至るまでの二酸化炭素濃度を測定。
寝室内の換気扇は無し。窓は全て閉める。
トイレの換気扇のみ稼働。(トイレの扉は閉)
暖房などの機器は使用無し。

この時の、二酸化炭素を計測した結果は、以下の通り。

測定結果からわかるとおり、寝室は就寝時間のほとんどで1000ppmをはるかに超えていることがわかります。空気の入れ替えを行わず住宅内で人間が二酸化炭素を排出すれば当然とのことではありますが、二酸化炭素濃度は上がります。

健康を害するかどうかは体質などにもよるでしょうが、健康面の影響から考えて設定された基準を大きく上回る部屋で長時間、睡眠していることは確かです。

しかし、多くの人にとって1000ppmを超えている、健康基準をオーバーしているという意識が薄いのが実情ではないでしょうか。

5.1000ppm超えるのは電車・新幹線車内くらい!

では1000ppmを超える場所が私たちの身の回りにどのくらいあるのか測定することにしてみました。

測定器は写真の機器GC-02です。最近はよりIT化された機器もあるようですが、数値に大きな差はありません。

サンプル数は多くはありませんが、身の回りに1000ppmを超える濃度の場所は案外少なく、また高い濃度の環境下に滞在する時間は短いことがわかります。煙がモクモクの喫煙室、人ごみのショッピングモールなどでさえ高くはありません。

理由は簡単なことで、すべての建築物は空気の質が管理されているからです。
満員電車においては管理が難しいようですが、滞在時間はせいぜい30~60分でしょう。

6.けっきょく自宅のCO2濃度がいちばんの問題

以下は測定した結果に基づき、一般的なサラリーマンが1日に過ごす空間のCO2濃度シミュレーションです。

あるサラリーマンの一日のCO2濃度

6:00 起床       7:00 徒歩にて出勤
7:30 電車に乗車    9:00 会社内    12:00 昼食  18:00 退社時間
19:00 居酒屋で一杯  21:00 電車に乗車  22:30 帰宅  23:30 就寝

高濃度で滞在時間が長いのは、自宅という結果になりました。
二酸化炭素の濃度が高いということは、ニオイや湿気も高くなりやすく、もしVOCの発生源があればVOC濃度も上がります。
逆に換気設備があれば、二酸化炭素だけではなく、VOC、臭い、湿気などの数値も低減できます。まずは換気を意識し管理をする。そして正常な空気質の状態にすることが重要です。

家族の健康維持と幸せが住宅換気の最大の目的ではありますが、換気を行うことで芳香剤がままでより少なくて良くなるかもしれません。また、空気清浄器はいらなくなるかも。こういった空気・ニオイ対策費用の節約効果もあります。
今一度、いま住んでいるおうちの空気質を考えてみませんか。