住宅換気コラム

住宅用換気システムの歴史は、輸入換気の歴史 第15回

日本の住宅換気システムの歴史をひもとく


1.1970年代 情報収集期
2.1980年代 事業開始・検証
3.2000年代 換気義務化
4.現在 日本は進歩したか


1.1970年代 情報収集期

ナミダタケ事件から始まる高断熱・高気密住宅開発の歴史

ナミダタケ被害を受けた床の構造木材(提供:青山プリザーブ)

1970年代後半に北海道・札幌を中心に起きた「新築数年で木材が腐り1階の床が落ちるという前代未聞のナミダタケ事件」や、「壁の内部結露、窓の結露とカビの多発」をきっかけに、北海道では建築学会や民間の主催で断熱住宅の先進国であるスウェーデン、フィンランド、ドイツ、デンマークへの北欧建築視察ツアーが始まりました。
実際に寒冷地における住宅の建築現場を見たり、大学の研究者、専門家から話を聞いたりする中で得た情報を持ち帰り、自分たちの家づくりに取り入れたり、応用するなどの試行錯誤が行われていました。
これらは建築技術の習得に限らず、建材や住設機器といったものも含まれていました。
1979年に日本に初めて住宅用セントラル換気システムを紹介したデイックス株式会社石原侑社長も、このような研修ツアーに参加し情報収集を行っていた一人です。

〈1970年代と言えばポップスの旗手・ABBA、男子テニスのビョルン・ボルグ。スウェーデンが輝いていた.写真はこちらhttps://swedenjapan150.jp/history/〉

1970年代のスウェーデンでは、過去20年間の建築ラッシュで供給された省エネルギータイプの住宅において換気が不十分なためにシックハウスの問題が多発したことや、中東紛争による世界的な石油危機(第1次オイルショック)により住宅の省エネルギー化が進み、断熱と気密の強化と、セントラル換気システムが導入されていました。もっと古くから標準化されていた温水式セントラルヒーティングは日本でも知られていましたが、この時代に新たに加わった「セントラル換気システム」を石原氏は初めて現地で目にします。

スウェーデンはすでにセントラル換気が導入されていた

〈バーコカタログから〉

当時の北海道の住宅は、断熱材を柱の間に厚さ10cmの断熱材を充てんする断熱がようやく始まったばかり。まだ「気密性能」という考え方も技術もありませんでした。換気に関しては、自然給排気の換気口(換気ガラリ)がついているだけ。機械換気という考えは台所の調理レンジ部以外にありませんでした。
一方スウェーデンは、住宅の高気密化によって窓ガラスの表面や壁などに結露が発生するようになり、さまざまな研究によってセントラル換気システムが効果的と判断され,1960年代から導入され始めていました。
訪問先のスウェーデンで初めてセントラル換気システムを目の当たりにした石原氏は、いずれ日本においてもダクト方式のセントラル換気システムがメジャーになっていくことを予感します。
というのも、北米から輸入された住宅工法であるツーバイフォー工法に取り組む札幌市内の工務店Y社から、『室内の結露がひどい』と悩み相談を受けていたからです。
『北海道の住宅も今後、スウェーデンと同様に高気密化が進み、住宅に機械式のセントラル換気システムが必要になる』そう感じたのです。

高気密性・換気不足で結露に悩んでいたツーバイフォー住宅

早速、石原氏はスウェーデンの換気メーカーにコンタクトをとり、換気機械を取り寄せ、日本国内で製造できないか検証を始めました。しかし多様な金型の作成など多くのハードルに直面し、最終的にはスウェーデンのメーカー(バーコベンチレーション社)から完成品を購入するしかないとの結論に達します。
室内結露に悩んでいた札幌のY工務店に『スウェーデンにはこんな製品がある』と話を持ち掛け、新築予定の医師である施主を交えて話をしたところ、やってみようということになりました。Y社はツーバイフォー工法を採用し、気密性が高かったのですが、換気に関しては自然換気による住宅であったため、冬期の結露やカビの大量発生に悩まされていたのです。

住宅セントラル換気の初採用は1979年
こうして住宅用セントラル換気システムの第1号物件はツーバイフォー(2×4)工法で、熱交換タイプを導入することになりました。
まずはスウェーデンのメーカーに住宅の図面を送り、ダクトの配管計画を依頼する手紙を書くことから始まりましたが、とりあえずやってみようというところまで漕ぎつけたものの、まだまだノウハウが不十分な中で試行錯誤を繰り返したといいます。
第1号物件は年の瀬の12月に竣工し、翌年の2月頃に室内がどのような状況か検証のために石原氏が訪問することになりました。当時、竣工後数か月の高気密建物は、自然換気でかつ木材などが乾いていないので、湿気が室内にこもっていることが一般的でした。
玄関に入った時に感じたのは、今までに経験したことのないカラッと乾いた良質な空気感。このとき始めて、セントラル換気システムの威力・効能を肌で感じ驚いたといいます。

2.1980年代 事業開始・検証

セントラル換気の驚くべき劇的効果

劇的な空気感の違いを実感できたことから、石原氏は本格的なセントラル換気システムの日本導入を開始します。当初導入した熱交換の換気システムは、ダクト工事費を含めると1台で100万~120万円でした。
翌年からすぐに年間4~5台のペースで実績が上がっていきますが、数が増えてくるとスウェーデンのメーカーでも手助けができない状況となり、石原氏はこの機に自分で習得するしかないと判断。通訳を帯同しスウェーデンのメーカーへ研修を受けに行くことにしました。研修は朝09:00から17:00までの本格的なもので、この研修でスウェーデンの換気・断熱・気密のノウハウを徹底して習得したといいます。
そんな研修期間のある日、メーカーの工場内を歩いていると第3種セントラル換気システムの本体が置いてありました。ただし、その時はどういったものかは分かりませんでした。メーカー技術者に尋ねると「実現する屋内空気環境は熱交換換気システムと変わらない」とのこと。半信半疑でこれを日本に持って帰って実際の新築物件に採用してみたところ、今までやってきた熱交換換気システムと同じ効果が得られました。

第3種換気との出会い

第3種換気(左)と第1種熱交換換気(右)の概念図(スウェーデン資料)

メーカーに確認すると、スウェーデンは南北に細長い国土のため、住むエリアによって気候にも差があり、真冬の気温がマイナス40℃に達するような北部エリアにおいては外気を温める手助けとして熱交換型の換気が使われており、比較的温暖なエリア(年間平均気温がプラス7℃の札幌程度)では第3種セントラル換気システムが一般的であることも分かりました。
熱交換セントラル換気システムは、捨てる空気がもっている室温を、給気する外の冷たい空気に伝えて、室内にサプライする新鮮空気の温度をあげるシステムです。給気も排気もファンを使う第1種換気でもあります。ただし、住宅の気密と断熱が不十分だったり、換気設計にミスがあると思うような効果が得られない点で、熱交換換気システムは総合的な技術が求められます。

第3種換気を発展させた換気排熱利用のヒートポンプシステム(ストックホルムのモデルハウス)

一方、第3種セントラル換気システムは、換気ダクトを配置して湿気と臭いのある屋内ゾーン(浴室や台所やトイレや納戸など)から汚染空気を抽出しファンで排気し,給気は室内の居室に設置した給気レジスターから外気を直接取り入れるという抽出型換気システムです。外気がさほど寒くない地域や、寒い期間が短い地域では、システムが単純な第3種セントラル換気システムを優先するというのが当時のスウェーデンでした。
第3種セントラル換気システムは前述の熱交換換気方式に比べほとんどの住宅に対応できます。例え断熱や気密のレベルが高くなくても、結露や臭い、カビの発生予防効果は得られるのです(屋内空気の流れをコントロールすることでの効果)。

いずれにしても2つのセントラル換気システムは,厳密に換気装置の空気量を設計し、屋内の全スペースを24時間17℃以上に保つ暖房システムを同時に採用することが必須です。

スウェーデンのノウハウを日本の住宅へ
石原氏はこれらの実体験や、ノウハウを踏まえ、デイックス社にて全ての物件の監修・設計・施工管理を行うことを前提にスウェーデンの換気の考え方をしっかりと理解し、間違った方式にならないことを徹底できる会社との取引に限定しながら製品の販売を進めていくことを基本的な販売方針と決めます。
当初は第一種セントラル換気システムを北海道の決まった顧客に、第三種セントラル換気システムを東北や北陸で、限定した売り先に販売し、徐々に販路を広げました。販売店についても上記の換気に対するノウハウを理解している会社に限定し、間違った使用がされないように気を配りました。
このような過程を経ながら、メーカーオリジナルの機器を日本向けに改良して、その後は自社ブランド(エアロバーコ計量換気システム)として展開します。
また、換気システムを販売していく中で住宅の気密性能が確保されていないと換気システムの効果を発揮できないことも分かり、1980年代前半には換気システムと並行して住宅気密測定機の販売を開始、1990年初頭には施工後の換気量を測定する風量測定器の販売も開始しました。
これらは換気本体を販売している中でセントラル換気システムを有効に機能させるための前提条件や、実際に設計通りの換気量が確保されているのかを検証する必要不可欠なものだったのです。

輸入換気のルーツ
ここで、日本輸入換気システム連盟に加盟する各社が海外から換気システムを導入し始めた時期を見てみましょう。

ガデリウス・インダストリー
1980年代からスウェーデン製換気システムを輸入

約30年前、1980年代後半からガデリウス(株)(現 ガデリウス・インダストリー(株))がデイックスと同じスウェーデン製の換気システムの輸入を始めています。
ガデリウス・インダストリー(株)はもともとスウェーデン企業で、日本で111年の歴史があります。建材以外にも幅広い製品の輸入を行っていますが、当時はスウェーデンとの結びつきが今以上に強く、換気システムの導入にあたっても取り扱い製品がスウェーデン製となったのは、高性能住宅の先進国であるスウェーデンからの技術とノウハウの輸入という面と、企業の歴史的なバックグラウンドにもあったのではないかと考えられます。

〈現行の全熱交換換気システム〉

第1号物件は熱交換タイプで、北海道での導入となりました。その後第3種タイプ、第3種とレンジフードを組み合わせたタイプ(スウェーデンでは一般的なタイプ)が主に北海道の高断熱・高気密住宅ビルダーを中心に採用されます。
ガデリウスでも販売開始当初はデイックス社同様、スウェーデンの換気のノウハウをビルダーに理解をしてもらったうえで、採用をしてもらうことに重点を置きながら販路を拡大していくスタイルでした。

日本スティーベル
エネルギー政策に沿い熱交換換気システムを開発

〈現行商品・LWZ-170〉

日本スティーベル(株)は1990年代前半からドイツ・スティーベルエルトロン社の顕熱型熱交換換気システムの輸入販売を開始しました。
スティーベルエルトロン社は1924年からドイツにおいて電気を熱源とした住宅設備の製造販売を行っており、暖房・給湯システムを中心に製品ラインナップを揃えていました。環境先進国ドイツにおいては、一次エネルギ-の削減を目的に熱源がヒートポンプに移行するとともに、換気による熱ロスの削減も必要となる状況から、ヒートポンプとともに熱交換型の換気システムの製造販売を開始し、同様のシステムの販売を北海道から開始しました。気密性・断熱性の優れた住宅に適合する換気システムは月日と共に進化し、現在に至っています。

日本住環境

〈商品名・ルフロ〉

日本住環境(株)は、他社に先がけ1980年から住宅用防湿・気密シート「ダンシーツ」と、住宅用透湿防水シート「ジョシーツ」の販売を開始。北海道から始まった高断熱・高気密住宅の技術情報を提供しながら関連商材の販売に力を入れ、その後、躯体換気部材なども発売し、機能性の高い住宅づくりを支えてきました。
数年後には輸入換気部材を組みこんだ独自の換気システム「オーロラ」を発売します。オーロラはシンプルで信頼性の高い第3種換気システムで、商品発売時には北欧式の屋根排気筒も用意されていました。
現在は「ルフロ」「ピアラ」の商品名で第3種換気システムを販売しています。省電力・節電型で、写真のように清掃・メンテナンスしやすい点が特徴。日本全国で広く採用できるネットワーク体制が特徴です。

3.2000年代 換気義務化

空気環境は良くなってきたか?

建材や家具から放散する化学物質により健康を害するシックハウスが社会問題となり、2003年には日本の建築基準法で機械換気の設置が義務化されました。その後15年ほどが経過しています。
スウェーデンから換気を導入した経緯を見てくると、換気の機械を輸入し販売するだけで素晴らしい室内環境が作られるというわけではないことが、分かっていただけると思います。
もちろん、機械本体の性能・機能は大切です。さらに機械の耐久性やメンテナンスの容易さなど、長く使う住宅部品だからこそ、初期性能以上に大切な部分の性能も、しっかりと見極める必要があります。
しかし、こういった機械の能力だけでない、いわば住宅建築全体の設計・施工の「ノウハウ」「ソフト」の部分が、機械性能と同じくらい重要であることも忘れないでほしいのです。換気システムの考え方をしっかりと理解し、そのために必要な周辺知識も併せて持ち合わせていないと良好な室内空気環境が得られません。

住宅を100年使うのが当たり前の国

〈1835年に建てられ、いまだに現役のスウェーデン住宅.スウェーデン在住中越氏提供〉

このようなしっかりとした換気に対する考えを構築できたスウェーデンにおいては、さぞかし一般の人たちも換気に対する意識が高いのではないかと思えますが、石原氏によると一般の人は換気に対する意識はさほど高くはないと言います。
スウェーデンは、いちど家を建てたら100年以上使うのも当たり前になっています。当然、住宅は子どもに引き継がれたり、他人に販売されます。そのときに住宅の価値を査定するプロがいます。住宅を買ったときより、長年住んでいても売るときには高価になっているのが普通です。
引っ越しをして住む場所が変わることは当たり前。住宅の築年数や性能において多少差はあっても、住宅を購入したときに最新の機能を加える、そして保守管理を徹底する、売るときに新築並みの機能が期待できるようにする。そうすることが普通に行われている国なのです。

スウェーデンはどのように住環境を保っているのか

〈スウェーデン・ルンド大学は、住宅高性能化をけん引してきた研究者が教鞭を執った大学として有名.大学HPから〉

国がしっかりとした政策をとり、例えば,スウェーデンやカナダは1980年代においては換気の普及を促すために低金利の融資により断熱・気密の強化と機械換気を積極的に導入させる政策を講じるなどを行っています。
また、ダクト配管や煙突に関しては専門の職人がメンテナンス清掃を行うことを義務付ける法律も作っているように、スウェーデンでは国がメンテナンスも含め、将来を見据えたモノづくりを奨励し、それを支える職人を支援しています。
スウェーデンが世界で最初に法制化したとされる住宅換気の換気量基準=1時間当たり家の容積の0.5回分(標準的にはACH0.5回/h)も、さまざまな専門官(ノルディック5ヶ国)が共同研究し、いろいろな場所でデータを取得しながら構築したものであり、換気計画においては新鮮空気の導入に当たっては周辺の自然空気環境も十分考慮すべきであるとしています。

4.現在 日本は進歩したか

日本で新築住宅に機械換気の導入が義務付けられて約15年が経ちました。果たして国や住宅の作り手の換気に対する意識はどう変化したでしょうか。
日本はいろいろな情報が入り乱れており、どのような住宅に住んでもほぼ同質で良好な室内空気環境が得られるスウェーデンと比較すると、まだかなりの差があるのではないでしょうか。
つまりこういうことです。
新築でいい住宅を手に入れることもできるが、住宅性能・空気環境ともにレベルの低い住宅は、いい住宅の何倍も多く建てられ続けている。そして、その差・違いは、消費者が見ただけではほとんど区別できない。
新築でこうですから、中古住宅は絶望的です・・。

日本輸入換気システム連盟は、こういった状況を何とか変え、スウェーデンをはじめとするヨーロッパ・北アメリカ諸国のように安心して住宅が手に入る環境をつくっていきたいと考えています。
高断熱・高気密を学んだ世代が退職し、作り手の世代交代が進んでいます。技術やノウハウの承継が進むように、今後とも情報発信を続けていきます。