熱交換換気の省エネと節約効果 第10回
はじめに
最近は、熱交換換気が寒い地域ではなく温暖な地域でも使われるようになりました。その理由はなんでしょうか。
『熱交換換気システムを使うことにより、数値上省エネになっている』
他にもいろいろな理由があるかもしれませんが、いちばんは『省エネ』でしょう。
さて、本当に省エネなのでしょうか?
日本では、省エネに対する誤解が少なくありません。そもそも、現在住宅の省エネルギー性を判断する物差しになっている「一次エネルギー」、皆さんが支払う「暖冷房費」、生涯維持管理コストといったいくつかの省エネの物差しがごちゃ混ぜに語られています。もう一つ大切なことがあります。熱交換換気システムが実現する「省エネ」は、住宅性能や暖房設備によって変わるという点です。
それらをいったん整理してみたいと思います。
その上で、本当の熱交換換気システムの実力を見極めてください。
1.熱交換換気は掃除の手間と電気代がかかることを忘れてはならない
2.あなたの家、あなたの地域は熱交換換気に適していますか?
3.温暖地ではコストが合わないことを知っていますか
4.10年後の換気装置を想像してみましょう
5.超高気密でなければ熱交換換気を設置する意味はない
6.暖房方法を見直す
1.熱交換換気単体では省エネにならない
熱交換換気システムは、常にモーターが2台回っています。第3種換気システムと比べ一次エネルギー、電気代ともに2倍以上です。
給気と排気の2経路のダクト配管が必要です。安価なタイプは排気を1か所にまとめている場合もあります。またフィルターメンテナンスの費用がかかります。おこたると熱交換率が下がるほか、換気不足の危険が高まります。
安価なタイプは1フロアに1台設置するため、2階建てで2台設置するとモーターが常時4台回っています。
これらの投資を上回る省エネ効果を実現することができるかどうかは、建設地、住宅性能、暖房方法次第です。熱交換換気システムの単体性能で決まるわけではありません。
2.あなたの家、あなたの地域は熱交換換気に適していますか?
省エネ住宅とは、断熱性と気密性を高めた熱効率に優れた家をいいますが、断熱性能は地域の寒さによって必要とされる仕様が変わります。寒い地域ほど高い断熱性能が必要になるのです。
一方、気密性能は地域に関係なく高い性能が求められます。熱交換の仕組みは、低温の外気を導入する際に捨てる空気から熱だけを取りだして受け渡す、というのが基本です。たくさんの熱を回収しなければ、ファンを2台使い熱交換素子という装置を長期にわたって運用するさまざまなコストが合わなくなります。
言い換えれば、外気と室内の温度差が大きいほど投入効果が大きいのです。
一日の平均気温がマイナス10℃、室温が22℃だとしたら、一日平均で32度の温度差があることになります。32度のうち数度は太陽熱ですが、20数度は暖房を使った結果です。このレベルになると、省エネ効果はあります。
あなたの地域はいかがですか。寒い日は年に何日ありますか。
「寒冷地における熱交換換気の選び方」にも「熱交換換気システムのネガティブ情報を開示します」にも掲載していますが、熱交換換気が効果を発揮するのは、日本国内では北海道とごく一部の寒冷な本州地域だけです。
http://www.jvia.jp/column/igi_6.htm
http://www.jvia.jp/column/igi_9.htm
では夏の冷房はどうでしょうか。
一日の平均気温が30℃、室温が26℃だとしたら、一日平均で4度の温度差があることになります。暖房に比べて冷房は意外にもエネルギーを使いません。
住宅に限れば、冷房時に熱交換換気で省エネに貢献するのは困難です。
3.温暖地ではコストが合わないことを知っていますか
内外温度差の小さい地域での熱交換換気システムの有効性はどこにあるのでしょうか。省エネが節約になるかどうか、費用面を見てみましょう。
熱交換換気システムの熱交換率はどの地域に設置してもさほど変わりませんが、回収できるエネルギー量は寒い地域ほど大きく、温暖な地域ほど小さいことは説明しました。一方、初期コスト、運用コスト、メンテナンスの頻度などは温暖地でも寒冷地でも基本的に変わりません。
設置費用はどの地域でも第3種換気システムより熱交換換気システムのほうが割高です。ただ、20年、30年の運用を通じて省エネ効果が大きければコストを回収できるのです。
ところが、熱量が小さい(省エネ効果が小さい)温暖地では、設置と運用の合計費用でも第3種より高くなることが「住宅用換気設備の計画と性能評価」ブックレットに記載されています(IBEC刊)。そのことを知っていますか。住宅メーカーからそういった説明を受けましたか。
4.10年後の換気装置を想像してみましょう
高性能住宅の寿命は50年以上と言われていますが、換気ファンのモーターは10年以上稼働すると交換時期を迎えます。住宅が存在している間に、モーター交換、フィルター交換等のメンテナンスが必要になるのです。また、送風ダクトの内部汚れは、掃除が可能なスパイラル管などの硬質管をのぞき、ダクトそのものを交換しなくてはならない可能性もあります(ロボットで清掃しても住宅内の配管は大きな曲がり、勾配等で、途中でダクトを破壊・脱落させるなどのトラブルがあり、完璧ではない)。もしやるなら、天井、壁をはがした大掛かりなメンテナンスになります。
このような事態が将来的に発生する可能性があることを、家を建てる前に知ってほしいのです。省エネだから得するという単純な思いで採用したとして、後々メンテナンス、モーター、ダクト取り換えに多大な費用が掛かる全熱交換システムを維持できる覚悟をもって導入しなくてはなりません。そこまで考え熱交換換気システムの導入を決めている人はどの位いるのでしょうか。省エネできたと喜んでいられるのは、最初の数か月だけです。その後に現れる、フィルターメンテ、モーターメンテ等をきちっと行わないと、埃、油、虫などがフィルター、モーターに付着して性能を劣化させ、知らずに放置するとフィルター、モーターの寿命を劣化させ思わぬ出費で省エネどころではなくなります。
ヨーロッパでは、北欧とドイツなどの北ヨーロッパは熱交換換気システム、外気温が比較的温暖な西欧などの地域では熱交換せずに省エネを実現するデマンド型と言われる第3種換気が提案されています。どんな地域でも熱交換換気システムが省エネになると考えるのは間違いです。
5.超高気密でなければ熱交換換気を設置する意味はない
高断熱・高気密の家は冷暖房費が安く省エネ住宅である誰もが思っています。
住宅周りの隙間を少なくする工法の進化により、全国津々浦々で超高気密住宅をPRする工務店も見られるこの時代です。ではどの位のC値(相当隙間面積)であれば高気密と言えるのでしょうか?
多くの専門家は0.5cm/m2以下としています。
※「第1種熱交換換気に求められる気密はC値0.5以上」も参照して下さい。
http://www.jvia.jp/column/igi_7.htm
このレベルの気密住宅は、屋外の寒さや暑さ、風力の影響を受けにくく、自然換気はほとんどありません。そこで機械換気システムが必要となってきます。外的な影響を受けない室内環境であれば、暖房機器も少ない容量の機器で全室暖房ができることになります。
熱交換換気システムは、換気によって失われる暖冷房エネルギーを少なくするための方法論です。熱交換換気システムを通過する空気に対しては、熱損失を軽減できます。
では、熱交換換気システムを通過しない空気は?
住宅に存在する大小の隙間は外的(温度差、風力)な影響を受け、風がある日や外が寒いには室内の空気を屋外に逃がしてしまいます。これを自然換気と呼びます。
自然換気による空気の移動に関しては換気システムを通過してないので、熱交換できません。自然換気が多ければ、換気による熱はダダ漏れになるのです。回収する熱よりダダ漏れになる熱のほうが多いという意味です。だから気密性能が重要なのです。
6.暖房方法を見直す
断熱・気密の弱いところでは隙間風や、結露が発生する危険性があります。また、多くは全室・全館暖房になってないので、冬場は、非暖房室間で結露の危険が高まるほか、暖房していない空間の空気を熱交換するムダが発生します。
開放型石油ファンヒーターを使うと、別の深刻な問題があります。非暖房室の結露や、カビのほか、住まい手の健康被害が心配になるのです。
エアコンが普及してきていますが、本州以南の暖房の主流はまだ石油ファンヒーターです。こまめに窓を開けて換気してくださいという注意が行われています。
室内空気環境の目安は、CO2(炭酸ガス)濃度1000PPM以下と言われています。自然界の街中で500~600PPM、風の吹く丘の上で200PPMくらいです。石油ファンヒーターで暖房し始めると、30分ほどで4000PPM~5000PPMになってしまいます。こんな空気を毎日多くの日本人は吸って冬場をすごしています。CO(一酸化炭素)のように即死しないし、少し頭が痛いくらいでは気がつかないのかもしれません。
また、石油ファンヒーターから排出される燃焼ガスには多くの水蒸気も含まれており、部屋の中で結露し、カビが生えてダニがわいて、ダニの死骸を子供が吸って、小児ぜんそく、アトピー性皮膚炎の危険性が高まります。
省エネも大切ですが、まずは暖房方法をチェックして下さい。