「良い家の基準ってあるの??」快適な住宅環境が健康と寿命を延ばす 第11回
はじめに-快適な家を見つけるには?
「快適で健康な住宅」とは、豪華さや贅沢さといった価値とは異なり、命に関わる問題であることが徐々にわかってきています。
『不快』は体が発する「危険信号」であり、危険信号が出ていない状態が「快適」です。
不快な状態が続くと、極端な場合、例えば厳冬期夜間にトイレに行き、循環器系の疾患を発症し、その場で命を失うこともあります。
高齢化社会に移行している現在、住宅等の屋内での死亡率が増え続けています。
例えば、入浴。お風呂や脱衣所が寒くて震え上がった経験は、ありませんか?
この震えは、素早く体温を上げようとする生体反応です。危険信号と言えます。
人の体は寒さを感じると、血管が収縮して血圧が上がります。
そのため、暖かい場所から寒い場所に移動すると、血圧が急激に上昇します。また、浴室が冷えている場合はさらに血圧が上昇します。
急激に血圧が上昇した状態で熱めの湯船に浸かると、血管が弛緩し広がって、今度は血圧が急激に下がってしまいます。このような急激な血圧の変動が、いわゆるヒートショックと呼ばれる状態であり、脳卒中や急性心筋梗塞を引き起こす原因となります。
毎年、脳卒中で約7万人の方が亡くなります。急性心筋梗塞も 4万人以上です。全ての方が、屋内でのヒートショックで亡くなった訳ではありません。しかし、交通事故による死亡者数が4千人弱まで減った昨今、ヒートショックなどを原因とする家庭内の事故死はその3倍以上にのぼります。
家庭内の事故で亡くなる方が交通事故死より3倍以上も多い。このことをまずはお伝えしたい。健康問題は命に関わるのです。
命を落とすには至らなくても、ヒートショックによって脳卒中を起こす、健康寿命(健康に暮らせる時間)を縮めてしまう場合があることを考え合わせば、被害は計り知れないものとなります。すなわち、「快適性」が必要不可欠される時代が訪れたと言えます。
〈photo:温泉施設内でヒートショックがほとんどないのは、脱衣場や廊下が暖かく、血圧の上昇がおきにくいからだと考えられています〉
1.快適性を測る『PMV』指標
2.どんな室内環境を作りたいかをまず考える
3.超高断熱住宅に求められる換気
1.快適性を測る『PMV』指標
そこで、屋内の快適性を手軽に、そして精度良く知る方法はないかと見渡しますと、現在最も有効で普及した指標として『PMV』という指標があります。
温度、湿度だけでなく、その他の要素も複合した「温熱快適性」を測定により示す指標です。
測定項目は6種類です。
室内環境に関する測定項目は4種類。
① 室温
② 相対湿度
③ 放射温度
④ 気流
そして人体に関連する入力項目(パラメータ)が2種類。
⑤ エネルギー代謝率(Met)
⑥ 着衣量
PMVは、これら6項目から計算される1つの指標で、快適性を+3から-3までの7段階で数量化します。
PMVの値が0の状態は、快適状態です。
測定項目のうち、③の放射温度を例に説明してみます。
典型的な例は、窓を通して入って来る直射日光です。
光は放射熱の1種です。しかし、直射日光(短波長放射)は極めて局所的で、ムラが生じるので、直射日光を受ける位置は測定点としては不向きです。日影を選んで下さい。
日影でも放射熱は存在します。床、壁、天井等、周囲の全てから放射熱が 出ています。但し、それらは赤外線(長波長放射)です。目には見えません。太陽光より低温だからです。
2.どんな室内環境を作りたいかをまず考える
ドイツで開発された超高断熱住宅「パッシブ・ハウス」にはこれまで、明確な開発基準がありませんでした。気密性能は高ければ高いほど良い。断熱性能も高ければ、高いほど良い。しかし、建物には予算が有ります。
気密工事も、断熱工事も、徹底してやろうとすれば予算がふくらんでいきます。あるレベルからは急激に工事費が増えます。ところがあるレベルを超えると、両工事ともに予算が増加する割には性能が上がらなくなり、目に見える効果は少なくなっていきます。
どれほど頑張っても完全な気密、つまり相当隙間面積を 0cm2/m2にすることはできません。また、熱が逃げない家、つまり外皮熱貫流率を0W/m2K にする事は、不可能です。限られた予算で、最良の住環境を実現することが重要であり、そのための一つの指針として屋内の温熱快適性が挙げられます。PMVは、この屋内温熱快適性を数値化したものです。
3.超高断熱住宅に求められる換気
換気システムも、気密性能、断熱性能の向上に伴い、姿を変えます。ある程度の気密性能が確保されれば、換気方式を給気・排気ともにファンを使う第1種換気に変えることが賢明です。
自然給気・機械排気式の第3種換気では、給気口から入る外気量が、風向きにより変化し、また居室に直接外気を入れるので冷気(ドラフト感)を伴うこともあり、高気密住宅には不向きです。
多くの場合、換気過剰の設計となってしまい、高い気密性能がいかせなくなります。
また、ある程度の断熱性能となれば、第1種換気は排気する空気から熱を回収する熱交換型となります。
壁や屋根、窓などからの熱の逃げが少なくなると、換気による熱損失が無視できなくなるからです。
それ以上の高断熱・高気密住宅では、熱交換器もトイレや浴室などからも熱回収できる顕熱型が、お奨めです。
顕熱型は、漏気率0% なのも利点です。ロスが無いからです。
また、断熱性能を活かすためには、浴室やトイレなど、臭気、塵埃、ガス等が発生する部屋からも熱回収することが有利です。それができるのも排気と給気が混じり合うことがない顕熱型の強みです。
さらに建物躯体の高断熱・高気密化が進むと、室内へ供給する外気は冷暖房機器に直結し、加温/冷房して室内に供給することも考えられます。
換気の使命は室内空気の入れ替えである以上、一定の外気導入量が必要です。これがコールド・ドラフトとなり、冬期では快適性の評価を下げます。
例え、暖房装置がいらないほどの高断熱住宅(無暖房住宅)であっても、気流によるコールド・ドラフトが避けられないため、温風が必要になることがあります。
そして、もっと重要なのが夏期の冷房時です。
無暖房住宅でも、断熱性能だけでは、無冷房住宅にはなりません。室内冷房の問題は、高い湿度をいかにして下げるかです。全室を除湿する外気の冷却装置が必要となってきます。
温度が高くても、湿度が低い北海道の夏ならば、冷房は冷却装置だけで十分です。
3時間の運転で、室温は28℃、相対湿度は50%位になります。
PPD※が示す「不快」を感じる人の割合が最も少ない室内環境です。
どの段階で、どのような換気システムが適正かを判断する基準がPMVです。
目指す方向は、PMVを0とし、不快を申告する人の割合を下げることです。
※PPD:人間がある暑い・寒い状態の時に、何%の人がその環境に対して不快を感じるかを表す数値。Predicated Percentage of Dissatisfied:予測不快者率と訳されています。