過去最高に達した地上のCO2濃度-CO2濃度と室内換気(後編) 第14回
はじめに
毎日新聞2017年10月31日の東京朝刊が「世界気象機関(WMO)は2017年10月30日、地球温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)の2016年の世界平均濃度が、403.3ppm(ppmは100万分の1、体積比)で、過去最高を更新したと発表した。2015年比での増加幅も3.3ppmで過去最大」と報じたように、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一つであるCO2は年々増加傾向にあります。
地球全体の二酸化炭素濃度の経年変化
青色は月平均濃度。赤色は季節変動を除去した濃度。
気象庁ホームページ(http://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html)より引用
また日本の現状を見ると、気象庁の観測点の一つである岩手県大船渡市綾里の2016年の値は407.2ppmとなっており、東京都の江東では綾里よりおおむね20ppm前後は高い観測データがまとめられています。
CO2濃度と室内換気・後編では、大気中のCO2濃度が年々高くなっている現実を前提に、室内空気環境への影響を考えていきます。
1.必要換気量と基準
2.換気システムに求められること
3.まとめ
1.必要換気量と基準
セントラル換気システム概念図(日本住環境)
建築物衛生法の衛生管理基準値
浮遊粉塵量 | 1m3あたり0.15mg以下 |
一酸化炭素 | 10ppm以下 |
二酸化炭素 | 1000ppm以下 |
温度・湿度 | 17℃以上28℃以下/ 40%RH以上70%RH以下 |
ホルムアルデヒド | 1m3あたり0.1mg以下(0.08ppm以下) |
※この基準値は中央管理式の空気調和設備の性能指標にもなっている。
住宅の換気の基準は建築基準法により定められており、2003年以降シックハウス対策として換気回数が1時間当たり0.5回以上(住宅の容積の半分が入れ替わる量)の機械換気設備の設置が義務付けられている。
ここで、住宅における必要換気量はどれくらいかを整理すると、
<1>換気回数0.5回/h
<2>1人あたりの必要換気量30m3/h
となっており、その根拠は<1>がシックハウス対策<2>がCO2濃度1,000ppm以下を満たすため-のものでです。
一例をあげれば、延床面積120m2の住宅に4人家族が住んでいる場合、
<1>換気回数0.5回/h:120 m2で平均天井高2.4mの場合
120m2×2.4m×0.5回=144m3/h
<2>1人当たり30m3/hの場合
30m3/h×4人=120m3/h
となり、いずれか大きな値を必要換気量とします。
<3>の必要換気量の算定はCO2の濃度が目安になっており、濃度を1,000ppm以下に抑えるためには、人間の呼気から排出するCO2と外気のCO2濃度が密接にかかわってくることになります。
〈換気システムはしばしばヒトの肺に例えられる〉
少々難しいのですが、一人あたりの必要換気量は、以下の算定式で計算できます
Q=M/(Ci-Co)=呼気のCO2濃度/((室内濃度-外気濃度)×10-6[m3/ m3])
=0.02[m3/(h・人)]/((1000-350)×10-6[m3/ m3])≒30 m3/(h・人)
必要換気量を計算する際、外気のCO2濃度は350ppmと仮定して計算しているため、大気中のCO2濃度の値が400ppmを超えている現状では、必要換気量が異なってきます。
もしも400ppmの場合、必要換気量はどれくらいになるのか計算してみると・・
Q=0.02[m3/(h・人)]/((1000-400)×10-6[m3/ m3])≒33 m3/(h・人)となり、約10%も多くなります。
1,000ppmを一時的に超えたことですぐに人体に影響はないにしても、外気のCO2濃度が高くなることで必要換気量が10%も増加するのは驚きです。外気中のCO2濃度は地域や季節によっても変動しますが、今後も外気の濃度は上がり続けると考えられているため、必要換気量も増加の一途をたどることになります。
2.換気システムに求められること
換気量が多ければ多いほど室内の二酸化炭素(CO2)濃度を下げることができますが、温熱環境を含めた室内の快適性や冷暖房エネルギーの省エネも考慮すると、換気量を多すぎず適切な量に設定し、それを維持管理できることが必要です。
2020年に予定されている住宅省エネルギー基準の義務化を前に、住宅の省エネに対する意識が高まり、住宅の断熱性能、気密性能が向上してくると、求められる換気システムの性能も変わってくるでしょう。
気密性能が低い場合はプロペラ形状のファン(有圧扇)などを使った局所換気で換気しても大きな支障はありませんが、風が吹くと風圧に負けやすい(1台が生み出す圧力が低い)有圧扇は、気密性能が高い住宅を24時間常時換気する換気設備には向きません。壁に複数のパイプ用ファンを設けて設計上の換気量を満たしても、住宅の気密性高くて空気を吐き出せず、実際の生活状態では予定通りの換気量が得られない場面が発生しやすいのです。
新築住宅の換気量を測定した例では、室内の給気口は開いており、ファンも回っているのに設計通りの換気量が得られないことが少なくありません。
何が要因なのか調べていくと、窓を開けると換気量が増え、窓を閉め切ると換気量が減るのです。原因はけっきょく、住宅の気密性能・C値が0.5以下の超高気密性能だったために、弱いファンでは空気を排出することができないという例もあるのです。
〈気密測定が大切になる.こちらの記事も参照〉
http://www.jvia.jp/column/igi_7.htm
住宅の気密性能は、仕様では決まらず施工状態が大きく影響を及ぼします。結局測ってみないとわからないため、換気の設計も事前に隙間を考慮して設計をすることは難しいです。
冒頭の外気のCO2濃度上昇とは若干話がそれた感がありますが、室内空気環境を良好に保つためには換気が不可欠で、空気のきれいさの指標としてCO2濃度が使われています。その基準(1,000ppm)を保つために手動か自動か?建物の性能は?エネルギー効率は?など様々な要因が絡んでくるため、これが一番!という決定的な換気システムを上げることは難しいのが現状なのです。
いくつか必要な要素を上げるとすれば
1.住宅の気密性能の良し悪しによる換気量の調整が可能なこと
2.ダクト配管や気密性能の圧力損失を考慮しても十分な能力があること
3.換気量の測定ができること
4.比消費電力が低いこと
5.能力の減衰が少ないこと
6.メンテナンスが容易なこと
〈換気システムの掃除しやすさは、きれいな空気を維持するための重要ポイント〉
特に、10年以上の長期にわたって換気性能を維持するためには、⑥の「メンテナンスが容易なこと」は極めて重要です。
自動車に例えれば、車を安全に維持するために「車検」制度が法律で義務づけられています。しかし、住宅には「家検」という制度はなく、換気性能の維持はもちろん家を安全に維持することはすべて住まい手にゆだねられています。それだけに住まい手のお手入れが重要になります。
現在の換気システムのマーケットは「車検のない国で車を売りまくり、整備はユーザーに任せて事故が起こったらすべてユーザーの責任」ということと同じで、故障したときには多額の費用が掛かり、事故が起きればもっと膨大な損失になる可能性があります。
このように、定期的に検査を行い必要に応じたメンテナンスを住まい手に期待するのならば、メンテナンスが極めて容易でフィルターやエレメント等のコストが低いダクト式機械排気システムが見直されるはずです。
3.まとめ
CO2濃度が年々高くなってきており、外気よりも低いCO2濃度は酸素ボンベでも背負わない限りあり得ません。昨今PM2.5など大気中の汚染物質を気にする人も多くなっており、高性能なマスクを着用して外出する方も見受けられます。またPM2.5を室内にできるだけ入れないように、高性能フィルターを使用した換気システムや空気清浄器も市場に出回ってきていて、それがセールスポイントになってきているのは事実です。
換気システム自体は空気を適切に入れ替える手段であり、目的は室内空気の状態を良好に保つこと。どんな高性能、高機能な製品でも、それだけでは快適性を実現することは難しく、住宅性能を決める設計と施工、そしてそこに住まう住まい手を含めた長期にわたる維持管理の徹底を抜きにしては実現できません。